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而今:三重が生んだ現代の日本酒の物語

Jikon sake illustration: Iga rice fields, a sake brewery and bottles of different rice varieties with the brand name 而今

而今(じこん)は、三重県名張市にある酒蔵、木屋正酒造の日本酒ブランドです。蔵そのものは1818年創業ですが、而今という銘柄は、ずっと新しい発想から生まれました。2000年代半ば、六代目当主が造りを任されるようになり、最初の酒に「今を精一杯生きる」という禅にちなんだ名前をつけたのが始まりです。

今ではこの名前は、決まった一つの味ではなく、さまざまな銘柄をまとめた呼び名になっています。木屋正酒造は、伊賀産の山田錦をはじめ、いくつもの酒米を使い、年間を通して違う酒を出荷しています。では、而今の何が特別なのでしょうか。ここでは、名前、米、季節、そしてそれを支える蔵を順に見ていきます。

目次

而今とはどんな日本酒?

三重県名張市、1818年創業、2005年発売、米の名前を冠したボトルという、而今の四つの特徴を示したイラスト。

而今は、三重県名張市にある家族経営の酒蔵、木屋正酒造の現代的な看板銘柄です。蔵によると、造りの全工程を見直したうえで、2005年に而今を発売しました。それ以前の蔵の定番銘柄は高砂で、おもに伊賀地方で販売されていました。

而今の基本情報

銘柄名
而今(じこん)
酒蔵
木屋正酒造(三重県名張市本町)
創業
1818年(文政元年)、江戸時代
発売
2005年(蔵による)。当主が杜氏として初めて造りを担ったのは2004年
名前の意味
今を精一杯生きることを意味する禅の言葉と、蔵は説明しています
主な米
伊賀産の山田錦のほか、雄町、愛山、酒未来、千本錦、八反錦、五百万石など
種類
特別純米、米の名前を冠した銘柄、純米大吟醸、大吟醸、生酒、にごり酒、おりがらみ
姉妹ブランド
高砂(蔵の古い銘柄で、2018年に復活)
蔵の見学
蔵によると、蔵での直売、見学、試飲は行っていません

而今はどんなタイプの日本酒?

而今の味は、一つに決まっているわけではありません。蔵のラインナップは、米の品種、等級、扱い方によって変わります。たとえば、ある一本は火入れをしないフレッシュな生酒でも、同じ米を使った別の一本は火入れをして、数か月後に出荷されることがあります。そのため「而今」は、商品名というより、シリーズ名に近い呼び名です。

而今はなぜこれほど知られているの?

希少性も理由の一つですが、それだけではありません。Nippon.comの特集では、蔵元が醸造の各工程を標準化し、麹づくりに力を入れていることが紹介されていました。同じ特集によると、当時このブランドを扱う店は、日本全国で約30軒にとどまっていたといいます。つまり、丁寧な造りと限られた流通が、並行して育ってきたのです。

而今という名前の意味は?

而今という名前に込められた三つの考え、過去にとらわれない、未来にとらわれない、今を精一杯生きる、を示したイラスト。

「而今」の二文字は、ブランド名では「じこん」と読みます。蔵は、日本の曹洞宗の開祖である道元が説いた禅の言葉だとしています。蔵自身が日本語でまとめた説明は、おおよそ次のとおりです。

「過去にも未来にも縛られず、ただひたすら今を精一杯生きる」

木屋正酒造による而今の説明(当サイトで現代の言葉に言い換え)

直訳なのでしょうか?

そうとも言えません。ここは少し立ち止まって考えたい点です。この二文字そのものは、古典的で文語的な言い方で「今」を指しています。一方、過去と未来について述べた長い文句は、蔵による解釈です。そのため、一語一語の訳というより、蔵が選んだ哲学として読むのがいちばん自然です。

名前は造りにどう表れているか

なぜ造り手は、このような名前を選んだのでしょうか。幸い、蔵のページにいくつか手がかりがあります。そこでは、造り手を、麹菌と酵母がはたらくための条件を整える人だと説明しています。また、伝統への敬意と最新の技術の両方を大切にしているとも述べています。そう読むと、而今という名前は、昨年の成功に安住せず、今季の酒をよりよくしていく姿勢を示していると受け取れます。

1818年から続く木屋正酒造の歴史

1818年から2026年までの木屋正酒造の歩みを、六つの節目で示したイラストの年表。

木屋正酒造は1818年、奈良や京都方面と伊勢神宮を結ぶ古い街道、初瀬街道沿いに創業しました。今も店先はその街道に面しています。ただし、蔵の歴史は、今見える建物よりも古く、これを意外に感じる人も多いようです。

江戸時代前期

先祖は、藤堂家に仕えていたころ、今の愛媛県今治から移り住んだと伝えられています。

1818年

初瀬街道沿いに木屋正酒造が創業します。高砂が、蔵の長年の銘柄となります。

1889年

現在の店舗兼主屋が建てられます。その後、1913年に増築、1988年に改修が行われます。

2004〜2005年

六代目当主が杜氏として造りを始めます。2005年、蔵が而今を発売します。

2013年

店舗兼主屋が登録有形文化財になります。

2018年

創業200年を機に、蔵が初の生酛造りで高砂を復活させます。

2026年1月

新しい鍛冶町蔵が、本蔵から約150メートルの場所で稼働を始めます。

材木商に由来する屋号

木屋正という名前には、実は実用的な由来があります。蔵によると、一家はもともと材木商を営んでおり、それが屋号の木屋正になりました。「木」の字は、木材を意味します。一方、今治から移り住んだという話は、家に伝わる言い伝えです。そのため蔵は、それを「そう言われている」こととして紹介しています。

而今以前の高砂

蔵は歴史の大半を通じて、高砂をおもに伊賀地方で販売してきました。この地元に根ざした歩みは大切です。而今は、何もないところから生まれたわけではありません。200年近く、近隣の人々に酒を届けてきた蔵から生まれたのです。

1889年築の建物

文化庁の登録有形文化財に、木屋正酒造の店舗兼主屋が挙げられています。その記録では、建物は1889年築で、1913年に増築されたとあります。また、漆喰壁と小さな格子窓を備えた木造の外観で、古い酒屋らしい造りだと説明されています。つまり、蔵の創業は1818年ですが、登録された建物はそれより新しいのです。

大西唯克と而今の誕生

但馬杜氏のもとでの修業から麹への集中まで、而今誕生の四つの段階を示したイラスト。

六代目当主は、大西唯克です。その歩みが、蔵の近年の歴史の転換点になりました。

但馬杜氏のもとでの修業

蔵によると、大西氏はまず2年間、但馬杜氏のもとで酒造りに取り組みました。兵庫県北部の但馬は、日本でも名高い杜氏集団の出身地の一つです。修業を終えると、自ら杜氏として造りを始めました。その立場で造った酒が、最初の而今になりました。杜氏という言葉になじみがなければ、当サイトの日本の杜氏のガイドをご覧ください。

2004年か、2005年か?

どちらの年も目にしますが、どちらにも根拠があります。たとえばNippon.comは、大西氏が2004年に杜氏を引き継いだと伝えています。一方、木屋正酒造の公式サイトは、而今の発売を2005年としています。いちばん分かりやすい読み方は、2004年に大西氏の指揮のもとで造りが始まり、2005年にブランドが市場に出た、というものです。

なぜ麹に力を入れるのか

麹とは、麹菌(Aspergillus oryzae)を米に繁殖させたもので、でんぷんを糖に変えます。Nippon.comによると、大西氏は麹について「酒の良し悪しを左右する」と語っています。同特集には、温度、湿度、米の水分を細かく管理していることも書かれています。当サイトの麹のガイドでは、この工程がなぜそれほど大切なのかを説明しています。

名張と伊賀盆地:而今のふるさと

内陸の盆地、粘土質の土壌、江戸時代から続く米づくり、名張川の水という、名張と伊賀盆地の四つの特徴を示したイラスト。

名張は、三重県西部の伊賀地方にあり、奈良との県境に近い町です。木屋正酒造の本蔵があるのは本町で、近鉄名張駅から徒歩約10分です。このあたりは内陸の丘陵地で静かな土地です。三重と聞いて多くの人が思い浮かべる、海辺のイメージとは大きく異なります。

伊賀盆地と米づくり

三重県農業研究所の伊賀農業研究室は、この地域を、山と高原に囲まれた盆地と説明しています。とくに、古琵琶湖層群に由来するミネラル豊富な粘土質の土壌と、大きな寒暖差を挙げています。同研究室によると、この地では江戸時代から米が作られてきました。また、酒米の栽培と酒造りも盛んだと記されています。

名張川の水

もちろん、水ももう半分の大切な要素です。蔵は、名張川を紀伊山地の地下水が流れ込む川とし、山すそには澄んだ水が流れていると説明しています。三重県の研究機関は、この地域が淀川水系の上流域にあることも付け加えています。ただし、蔵は仕込み水の成分分析を公表していません。

土地も大切だが、決めるのは造り手

伊賀の気候が而今の味を「生み出す」と言いたくなりますが、それは言いすぎです。米、水、天候は、いわば出発点の条件を整えるにすぎません。その先は、米の選び方、麹づくり、発酵、貯蔵が、グラスの中の酒を形づくります。

而今を支える米の品種

山田錦、雄町、愛山、酒未来、千本錦、八反錦という、而今に使われる六つの酒米を示したイラスト。

何より、米は而今の銘柄を見分けるいちばん分かりやすい手がかりです。蔵は、伊賀産の山田錦を中心にしつつ、全国から良い酒米も仕入れているとしています。多くの銘柄はラベルに米の名前が入るため、品種が商品名の一部になっています。当サイトの酒米のガイドで基本を解説しています。

なぜ米ごとに造り分けるのか

まず、酒米は食用米とは違います。2020年の概説で、白鶴酒造のYoshihiro Tamada氏は、酒造りでは、粒が大きく、たんぱく質と脂質が少ない米が好まれると説明しました。また、多くの品種には「心白」と呼ばれる、でんぷん質の白い芯があります。麹菌はこの芯に入り込みやすく、強い酵素をつくる助けになります。こうした特徴は品種によって異なるため、蔵での扱いも品種ごとに少しずつ違ってきます。

而今の中心となる品種。蔵は、伊賀産の米に加え、兵庫県の吉川と東条の米も、別々の銘柄として使っています。

1859年に見つかった岡山県の品種。生酒、火入れ、生酛、最上級の純米大吟醸に使われています。

兵庫県で、Aifune 117とYamao 67を掛け合わせて育成された品種。秋に火入れの銘柄として発売されます。

山形県の高木酒造が開発した品種。而今では、2月発売の生酒です。

広島県の2品種で、どちらも生酒と火入れの両方で発売されます。

蔵のリストにあるそのほかの品種。朝日には、夏に出る専用の銘柄があります。

山田錦

山田錦は、よく「酒米の王様」と呼ばれます。木屋正酒造は、伊賀産の山田錦を主力の米としています。加えて、兵庫県の吉川と東条の名を冠した銘柄も出しています。兵庫県の機関は、吉川と、東条を含む加東市を、山田錦で最上位の「特A-a」の地区と位置づけています。これらを並べて飲み比べるのは、このラインナップのささやかな楽しみの一つです。

雄町

次は雄町です。日本で現存する最も古い酒米の一つです。JA全農おかやまによると、1859年、現在の岡山市にあたる雄町で、一人の農家が見つけました。同団体は、雄町の約98%を岡山県で栽培しているとしています。また、雄町は交配を経ずに純系を保っている唯一の酒米だとも述べています。背が高く栽培が難しいため、かつては生産量が大きく落ち込みました。

愛山

愛山は、兵庫県で育成された、より希少な品種です。2017年のSeraiの記事は、Aifune 117とYamao 67の交配に由来するとしています。この系譜は誤って伝えられることがあるため、正しく押さえておく価値があります。而今のラインナップでは、愛山は10月発売の火入れ酒です。

酒未来

酒未来は、山形の酒蔵、高木酒造が開発した品種です。同蔵は十四代を手がけていることでも知られます。Seraiによると、1999年に山酒4号と美山錦から育成されました。現在は、ほかの酒蔵でも使われています。而今では2月発売の生酒で、その年の新酒のなかでも早く出る銘柄の一つです。

千本錦と八反錦

どちらも広島県生まれの品種です。広島県の農業研究機関が2002年に出した研究報告は、千本錦を山田錦型の米と説明しています。成熟が約1週間早く、背丈が約10センチメートル低いため、田んぼで倒れにくいといいます。而今は、どちらの米も、冬にフレッシュな生酒として、また年の後半に火入れ酒として発売しています。

五百万石と朝日

この2品種で、米の紹介は一巡です。蔵は使用米の一つに五百万石を挙げており、朝日には7月に出る火入れの専用銘柄があります。要点ははっきりしています。有名な米が一つあれば而今が決まる、というわけではないのです。

精米歩合と而今の等級

純米から大吟醸までの五つの酒の等級と精米歩合を、小さくなっていく米粒とともに示したイラスト。

精米とは、醸造の前に、米粒の外側を削り取る作業です。国税庁は、精米歩合を、玄米の重さに対する精米後の米の重さの割合と定めています。つまり、精米歩合60%とは、粒の60%が残っているという意味です。実際の仕組みは、当サイトの精米歩合のガイドで具体的に紹介しています。

等級原材料精米歩合
純米米と米麹のみ制限なし
特別純米米と米麹のみ60%以下、またはラベルに説明された特別な製法
純米吟醸米と米麹のみ60%以下、吟醸造り
純米大吟醸米と米麹のみ50%以下、吟醸造り
大吟醸米、米麹、醸造アルコール50%以下、吟醸造り

国税庁による、日本の清酒表示基準の概要に基づきます。ここに挙げた等級はいずれも、麹米の割合が15%以上であることも条件です。

而今が造る等級は?

而今のラインナップには、特別純米が1本、米の名前を冠した銘柄が多数、純米大吟醸が数本、大吟醸が2本あります。背景を知りたい方は、当サイトの特別純米、純米吟醸、大吟醸のガイドをご覧ください。蔵が仕様を詳しく公開しているのは、オンライン上では1銘柄だけです。Tokujo Omachiの純米大吟醸は、精米歩合35%の岡山県産米を使い、アルコール度数は15%です。

精米歩合が低いほど、良い酒なのか?

いいえ。表示のルールにも、そのようなことは書かれていません。精米歩合が低いと、酒のタイプが変わり、多くの場合は価格にも影響します。ただ、酒が「良い」かどうかは、米、麹、酵母、発酵、そして自分の好みで決まります。数字はラベルを読む助けになりますが、すべての銘柄に順位をつけられるわけではありません。

生酒、火入れ、にごり、おりがらみ

生酒、火入れ、にごり、おりがらみという、酒の四つの扱い方を示したイラスト。

同じ米の名前を冠していても、扱い方が違う而今の銘柄は少なくありません。違いの大半は、次の四つの用語で説明できます。ラベルの読み方に迷ったら、当サイトの日本酒ラベルの読み方のガイドも参考になります。

用語意味而今の例
生酒製造後に一度も加熱処理をしていない酒です。日本の表示ルールで「生」と表示できるのは、こうした酒だけです。酒未来、千本錦、山田錦、雄町の生酒
火入れ酒を安定させるための穏やかな加熱処理、つまり低温殺菌を指す一般的な呼び名です。米の名前を冠した銘柄の大半と、大吟醸のライン
にごり搾ったあとも米の固形分が多めに残る、白く濁った酒です。にごり酒の生酒、11月発売
おりがらみ細かいおりを少し残して瓶詰めした酒で、うっすらと白く霞んでいることがよくあります。おりがらみの生酒、12月発売

生酒

生酒は火入れをしないため、フレッシュで生き生きとした味わいになりやすい酒です。デリケートなので、冷やして保存する必要があります。当サイトの生酒のガイドで、このタイプをさらに詳しく説明しています。

火入れ酒

火入れは法的な等級ではありません。酒造りの現場で、加熱処理を指して日常的に使う言葉です。低温殺菌をすると酒が安定し、造り手が意図した個性が長持ちします。詳しくは、当サイトの日本酒造りにおける低温殺菌の記事をご覧ください。

にごり酒とおりがらみ

にごりもおりがらみも見た目は濁っていますが、同じではありません。にごりは一般に米の固形分が多く残るため、乳白色に見えます。おりがらみは、通常は細かいおりが入る程度なので、うっすら霞んで見えるだけの場合もあります。量は銘柄によって違うので、購入前に確認してください。より濁ったタイプについては、当サイトのにごり酒のガイドで紹介しています。

これらの用語が大切な理由

ここが役に立つ点です。同じ米が、一年のうちに二度届くことがあります。まず生酒として、のちに火入れ酒として出るのです。この二つを飲み比べると、扱い方で酒がどう変わるかが簡単に分かります。

一年を通した而今のラインナップ

冬から秋まで、季節ごとの而今の発売を示したイラスト。

木屋正酒造は、毎月違うタイプの酒を出荷しているとしています。すべての銘柄が常に販売されているという意味ではありません。それぞれに出荷予定の月があり、下の表のとおりです。

月蔵のリストにある而今の銘柄
1月千本錦 生酒
2月酒未来 生酒;山田錦 生酒
3月雄町 生酒
4月山田錦 火入れ;特別純米 火入れ(4月から)
5月雄町 火入れ
6月純米大吟醸 Nabari;大吟醸 白鶴錦;八反錦 火入れ
7月朝日 火入れ
8月千本錦 火入れ;生酛 オーガニック山田錦
9月吉川 山田錦;東条 山田錦
10月大吟醸 Yanase;愛山 火入れ;生酛 Akaiwa 雄町;生酛 Akitsu 山田錦
11月純米大吟醸 Tokujo Omachi、Tokuto Omachi;にごり酒 生酒
12月八反錦 生酒;特別純米 生酒(12月から);おりがらみ 生酒

木屋正酒造の公式の日本酒ページに記載された出荷月です(2026年11月時点)。スパークリングタイプの純米大吟醸(活性酒)には、決まった月がありません。年によって予定が変わることがあるため、購入前に最新の掲載内容を確認してください。

特別純米

特別純米は、多くの飲み手にとって、いちばんなじみのある而今です。12月から生酒、4月から火入れ酒として出ます。蔵のオンラインのリストには、米や精米歩合の詳細がないため、手元のボトルの裏ラベルで確認してください。

山田錦の銘柄

ここでは、山田錦を楽しむ方法が三通りあります。まず、定番の山田錦は、2月に生酒、4月に火入れ酒として出ます。そして9月には、吉川と東条の銘柄がそろって登場します。この3本を並べると、米の産地について考える手軽で楽しい方法になります。

雄町、愛山、酒未来

雄町は発売時期の幅がいちばん広く、春の生酒から、秋の生酛、11月の純米大吟醸まであります。愛山は10月に火入れ酒として登場します。一方、酒未来は冬の生酒です。

純米大吟醸と大吟醸

最上位には、Tokujo OmachiとTokuto Omachiの純米大吟醸のほか、名張の名を冠した一本があります。大吟醸も2本あり、白鶴錦を使ったものと、Yanaseの名で出されるものです。これらは特別な日の銘柄で、たいてい価格も高めです。

生酛の銘柄と季節限定の発売

現在のリストには、而今の名で出す生酛が3本あります。生酛は、酒母を時間をかけて造る伝統的な方法で、当サイトの生酛のガイドで説明しています。これらのほか、にごり酒とおりがらみの生酒が、11月と12月に登場します。

而今はどんな味?

香り、うまみ、バランス、口あたりという、而今の味わいを読み解く四つの視点を示したイラスト。

正直なところ、答えは一つではありません。而今は多くの銘柄の総称で、蔵もほとんどの銘柄について、テイスティングノートを公表していません。それでも、いくつかの傾向を知っておくと、何に注目すればよいかが分かります。

香りフルーティーなものもあれば、蒸し米に近いものもあります

うまみ米に由来する深みで、品種や等級によって異なります

バランス甘みと酸味は、銘柄ごとに変わります

口あたり生酒は生き生きと、火入れ酒は落ち着いた印象になりがちです

香り

香りは、等級と酵母に大きく左右されます。上位の吟醸系の銘柄には、果実のような香りが出やすくなります。一方、シンプルな銘柄や生酛の銘柄は、米や穀物の香りが強めのことがあります。グラスを手で軽く温めてから、もう一度香りを確かめてみてください。

味わいとうまみ

日本酒のうまみは、米と麹のはたらきから生まれます。ただし、その強さは品種、精米、発酵によって変わります。同じ蔵の酒でも、雄町と山田錦では、かなり違った印象になることがあります。

甘みと酸味

而今は甘いのでしょうか。甘く感じる銘柄もあれば、後味がすっきり辛口の銘柄もあります。酸味も大切で、甘さを重く感じさせない役目を果たします。たとえば蔵は、Tokujo Omachiの酸度を1.5としています。数字は目安になりますが、決めるのは自分の舌です。

口あたりと余韻

口あたりは、生酒と火入れ酒の差がいちばん出るところです。生酒は、明るく活発に感じられることが多くあります。これに対して火入れ酒は、丸みがあり、落ち着いた印象になることがあります。当サイトの日本酒の味わい方のガイドでは、こうした違いに気づくための簡単な方法を紹介しています。

料理との相性と選び方

而今の最初の一本を選ぶための五つの方法を示したイラスト。

而今の合わせ方に、決まったルールはありません。銘柄ごとに違うので、酒の重さを料理に合わせるとよいでしょう。軽やかで香りのよい銘柄は繊細な料理に、しっかりした銘柄は濃い味にも向く傾向があります。ほかのヒントは、当サイトの日本酒と料理のペアリングのガイドをご覧ください。

料理別の組み合わせ

刺身や新鮮な魚介には、軽くてすっきりした銘柄が合うことが多いです。焼き魚や味の濃い料理には、うまみと酸味がしっかりした銘柄がよく合います。天ぷらには、すっきりした純米吟醸タイプの酒も合わせられます。濃厚な肉料理、たとえば三重の松阪牛には、しっかりした雄町や生酛の銘柄のほうが合うかもしれません。

而今がはじめての方

まずは特別純米から。ブランドでいちばんなじみのある一本です。

山田錦が好きな方

定番、吉川、東条の銘柄を飲み比べましょう。

米の個性をしっかり味わいたい方

雄町を試してみましょう。春の生酒か、5月の火入れ酒です。

季節のお酒が好きな方

冬の生酒、にごり、おりがらみの発売を探してみましょう。

特別な日に

見つかれば、純米大吟醸や大吟醸を選んでみてもよいでしょう。

而今の飲み方と保存

而今は冷やして飲む人が多く、とくに生酒はそうです。一方、火入れの銘柄の中には、少し常温に近づけたほうが開くものもあります。香りを楽しむならワイングラス、より伝統的な雰囲気なら小さな盃が向いています。生酒は冷蔵庫で保管し、開栓後はどの銘柄も冷蔵してください。そのうえで、ラベルに書かれた保存方法に従ってください。当サイトの日本酒グラスと日本酒の保存のガイドで、さらに詳しく紹介しています。

而今と高砂:一つの蔵、二つのブランド

木屋正酒造の二つのブランド、而今と高砂を比べたイラスト。

木屋正酒造は二つのブランドを造っていますが、役割は異なります。高砂は、創業当時から続く蔵の古い銘柄です。一方の而今は、2005年以降に築かれた現代の看板銘柄です。

而今

2005年に発売した現代の看板銘柄。米の名前を冠した銘柄や季節の銘柄が幅広くそろい、日本全国の日本酒専門店で販売されています。

高砂

1818年から続く蔵の銘柄で、長く伊賀地方で販売されてきました。2018年に、蔵として初めての生酛造りで復活しました。現在は、Shokukakuの純米大吟醸と、通年販売の普通酒があります。

2018年の復活

蔵は2005年から而今に力を注いできましたが、創業200年にあたる2018年に高砂を復活させました。このとき、会社の歴史で初めて生酛造りも取り入れました。高砂は、単なる懐かしいラベルではありません。蔵が、はるかに古い製法に初めて取り組む場になったのです。

なぜ両方を残すのか

二つのブランドがあることで、一つの蔵が二つの考えを同時に持てます。而今は、その名のとおり「今」を見つめます。一方の高砂は、200年続く名前を守っています。二つを合わせると、過去を尊びながら、過去にとらわれない蔵の姿が見えてきます。

鍛冶町蔵:2026年の新施設

2026年1月に稼働した新施設、鍛冶町蔵に関する四つの事実を示したイラスト。

2026年1月、木屋正酒造は鍛冶町蔵という新しい施設を稼働させました。地元メディアの伊賀タウン情報YOUによると、稼働開始は1月5日で、1月24日に竣工式が行われました。場所は、本町の本蔵から南東に約150メートルです。

新しい建物の役割

鉄骨2階建てで、延べ床面積は約956平方メートルです。報道によると、自動の洗米・浸漬機が入っています。これまでは4人が手作業でその工程を担っていました。また、約330平方メートルの冷蔵庫があり、マイナス5度ほどに保たれています。乾燥室と、ラベルや梱包資材の置き場も備わっています。

本蔵を置き換えるのではなく、支える

報道は、この計画を、本蔵と別の倉庫の間の運搬など、スタッフの負担軽減と結びつけています。新施設を主たる醸造棟とは述べていません。生産量の増加を示す数字もありません。したがって、鍛冶町蔵は歴史ある本蔵を支える施設で、本蔵が今も造りの中心だと読むのが最も確実です。この報道は、見学を受け付けていないとも伝えています。

而今はなぜ手に入りにくいのか

而今を責任ある形で購入するための四つのヒントを示したイラスト。

而今が手に入りにくい理由は、いくつか重なっています。まず、多くの銘柄が年に1、2回しか出ません。次に、日本酒ファンの間で需要が高いことです。三つ目は、蔵が日本酒専門店を通じて販売しており、どこでも買えるわけではないことです。これらが重なると、1本が短期間で売り切れることがあります。

定価と転売価格

価格には大きな幅があります。店の通常価格で売られることと、その数倍の価格で転売されることは、まったく別の話です。高い価格は、品質が高いことも、酒が新しいことも意味しません。むしろ、保管の悪い生酒は、期待より味が落ちていることもあります。

而今を責任ある形で買うには

信頼できる酒販店から購入し、酒の保管状態も確かめましょう。ラベルで、出荷日、米、生酒かどうかを確認してください。ボトルの出どころを説明できない売り手には注意が必要です。海外では、入手できるかどうかは現地の輸入業者や店しだいです。

名張の木屋正酒造を訪ねる

名張と木屋正酒造の店先を訪ねるための四つの情報を示したイラスト。

木屋正酒造は名張市本町314-1にあり、近鉄名張駅から徒歩約10分です。ただし、訪れる前によく計画を立ててください。

訪問前に

木屋正酒造は、造りに専念するため、店頭での販売、蔵見学、試飲は行っていないと述べています。蔵から変更の発表がない限り、試飲を目的とした訪問は計画しないでください。

見られるもの

道から、旧初瀬街道沿いにある、登録された1889年築の店構えを見られます。静かに眺め、営業中の事業所への配慮をお願いします。名張の古い街並みを歩くときの、すてきな見どころです。

名張と伊賀を巡る

伊賀地方全体は、ゆっくり旅するほど魅力が深まります。地元の酒店、田んぼ、古い街道が、ボトルの背景を教えてくれます。三重県には、ほかにも食べたいものが多くあります。たとえば伊勢うどんは、伊勢神宮へ向かう途中でも味わえます。

而今にまつわるよくある誤解

而今についてよくある五つの誤解を示したイラスト。

而今については、何度も耳にする話がいくつかあります。実際はどうなのか、見ていきましょう。

「而今は一種類の日本酒」

等級、米の品種、季節の発売が多数ある、一つの銘柄群です。

「而今はいつも甘くてフルーティー」

味わいは、銘柄、米、扱い方によって変わるので、決まった味はありません。

「山田錦しか使っていない」

山田錦は中心ですが、雄町、愛山、酒未来なども大切です。

「どのボトルも希少」

手に入りやすさは、銘柄、月、店によって違います。

「高砂と而今は同じ」

どちらも木屋正酒造の酒ですが、歴史も役割も異なります。

最後に:今、而今が意味するもの

而今は、「手に入りにくい酒」として語られがちです。しかし、それではもっと面白い物語を見逃してしまいます。この名前の背後には、覚えておきたい三つのことがあります。

1. 長い歴史木屋正酒造は1818年から、旧初瀬街道沿いの名張で酒を造ってきました。

2. 「今」の哲学蔵は而今を、過去にも未来にもとらわれず、今を精一杯生きることだと説明しています。

3. 米の探究一本一本の酒を通して、而今はさまざまな酒米の品種の違いを探っています。

結局のところ、而今の魅力は希少さだけではありません。歴史ある蔵が、季節ごとに、今できる最良の酒を造ることを選び続けていることの表れです。ボトルに出会えたら、ラベルの米と月に注目してください。そして、今ここにある味として楽しんでください。

而今についてのよくある質問

ブランドについて

而今とはどんな日本酒ですか?

三重県名張市の木屋正酒造が造る日本酒ブランドです。一つの酒ではなく、米の名前を冠した銘柄や季節限定の銘柄を含む、幅広いラインナップです。

而今はいつ生まれましたか?

Nippon.comによると、六代目当主は2004年に杜氏として造りを始めました。蔵自身は、而今の発売を2005年としています。

而今とはどういう意味ですか?

蔵は、道元にまつわる禅の言葉と説明しています。過去にも未来にもとらわれず、今を精一杯生きる、という考え方だとしています。

而今を造っているのはどこですか?

1818年創業の木屋正酒造です。六代目当主の大西唯克が、このブランドを生み出しました。

而今と高砂の違いは何ですか?

どちらも木屋正酒造の銘柄です。高砂は古くからの蔵の銘柄で、2018年に生酛造りで復活しました。而今は、2005年に発売された現代の看板銘柄です。

味わいと購入

而今はどんな味ですか?

銘柄によって違います。米の品種、等級、生酒か火入れ酒かによって、香り、甘み、口あたりが変わります。

而今にはどんな米が使われていますか?

蔵のリストによると、伊賀産の山田錦が中心で、雄町、愛山、酒未来、千本錦、八反錦、五百万石、朝日も使われています。

而今は冷やして飲むべきですか?

冷やして飲むのが一般的で、とくに生酒はそうです。火入れの銘柄の中には、少し温度が上がったほうが楽しめるものもあるので、ラベルと自分の好みに従ってください。

而今はなぜ手に入りにくいのですか?

多くの銘柄は特定の月にしか出荷されず、需要も高く、蔵は選ばれた専門店を通じて販売しています。海外では、入手できるかどうかは現地の輸入業者しだいです。

而今の蔵を見学できますか?

試飲や見学はできません。木屋正酒造は、店頭での販売、蔵見学、試飲はいずれも蔵では行っていないと述べています。

参考文献

13件の参考文献をすべて表示
  • 木屋正酒造 – About Kiyasho Shuzo: Spirit, History and Tradition, Climate and Sake Brewing (2026年11月閲覧)
  • 木屋正酒造 – Sake: Jikon and Takasago Product List (2026年11月閲覧)
  • 木屋正酒造 – 会社概要 (2026年11月閲覧)
  • 文化庁 文化遺産オンライン – 木屋正酒造 店舗兼主屋、登録有形文化財(2013年登録) (2026年11月閲覧)
  • 国税庁 – 「清酒の製法品質表示基準」の概要 (2026年11月閲覧)
  • 三重県農業研究所 – Iga Agricultural Research Office: Regional Overview (2021) (2026年11月閲覧)
  • 兵庫県 北播磨県民局 – Director’s Message, February 2025: Yamada Nishiki and Japan Agricultural Heritage (2025) (2026年11月閲覧)
  • JA全農おかやま – News Release: The 17th Omachi Summit (2026) (2026年11月閲覧)
  • 日本生物工学会 – Tamada, Y. (2020). Characteristics of Sake Rice and Its Varietal Traits. Seibutsu-kogaku Kaishi, 98(1), 32 (2026年11月閲覧)
  • 広島県 – Katsuba, Z., Tsuchiya, T., and Tamaki, M. (2002). Method of Fertilization on the Basis of Leaf Color at Panicle Formation Stage of a Brewer’s Rice Variety ‘Senbonnishiki’. Bulletin of the Hiroshima Prefectural Agricultural Technology Center, 72, 1–10 (2026年11月閲覧)
  • 伊賀タウン情報YOU – New Brewery Completed, “Continuing to Make Sake That Moves People”: Kiyasho Shuzo, Maker of Jikon, Nabari (2026) (2026年11月閲覧)
  • Nippon.com – “Nihonshu” Now: How the Maker of Jikon Turned Mold into Gold (2026年11月閲覧)
  • Serai(小学館) – Ten Sake Rice Varieties That Shape the Basic Flavor of Sake (2017) (2026年11月閲覧)

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About the Writer

Ryo Iwaのアバター Ryo Iwa Founder and Editor, Food in Japan

Ryo Iwa は foodinjapan.org の運営者兼編集者です。日本で生まれ育ち、各地への取材や市場めぐり、そして外国語圏の読者にはほとんど届かない日本語の一次資料をもとに記事を書いています。醸造研究機関の刊行物や業界用語集がその中心です。一次資料までたどれない数値については、その旨を記事内に明記しています。

Google マップのローカルガイドとして10年以上活動し、クチコミ1,850件以上、写真42,000枚以上を投稿。閲覧回数は数億回にのぼります。それ以前は日本・米国・英国で20年間 IT コンサルタントとして働いていました。

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