日本で高級メロンといえば、まず北海道を思い浮かべる人が多い。夕張メロンにはそれだけの名声がある。驚くような高値で競りにかけられ、毎年春になるとニュースにもなる。けれど、日本のメロンの大半が実際にどこで作られているのかと聞けば、答えは北海道ではない。茨城だ。
茨城県は、日本のメロン生産量で20年以上にわたり首位を保っている。年間およそ4万トンという、その量だけでも圧巻だ。だが、茨城メロンを本当に知る価値があるのは、単なる量の多さではない。品質の高さ、品種の幅、そして近年もっとも話題になった新しいメロン品種の一つを生み出した、10年に及ぶ育種プロジェクトにある。
茨城メロンとは?

茨城メロンは単一の品種ではない。県内各地、特に鉾田市を中心に栽培されるメロンの総称だ。鉾田市だけで日本一の自治体別メロン出荷量を誇る。地域ではおよそ10種類の品種が栽培され、春から初秋まで続く長いシーズンをカバーしている。
代表的な品種はイバラキングとクインシー。ほかにもアンデスメロン、アールスメロン、オトメメロン、タカミメロンなどが栽培され、評価されている。果肉が緑色のタイプもオレンジ色のタイプもあり、味わいの傾向や見た目でしっかり選べるのも魅力だ。
品種ごとに旬のピークが異なるため、茨城メロンはおおむね4月から10月ごろまで出回る。ほぼ半年である。メロンといえば夏の短い期間という印象が強いだけに、この幅広さは意外だ。
イバラキング:完成まで10年かけたメロン

Ibaraking(イバラキング)は茨城を代表する旗艦品種で、日本でも特に丁寧に開発されたメロンの一つだ。2011年に発売されたが、開発はそこから10年前に始まっている。県の研究機関は400以上の交配組み合わせを試し、最終的な品種にたどり着いた。父親(花粉親)はアールスメロン系の品種。母親(種子親)は4万の候補から選抜された。
その労力は結果に表れている。イバラキングは一般的な春メロンより大ぶりで、果肉は同等品種と比べておよそ10%厚い。食感はなめらかで密度が高い。甘さはしっかりありながらくどさはなく、後味はすっきり。切った瞬間、部屋に香りが満ちる。
その名には静かな野心がある。「イバラキング」は、この品種を茨城のメロンの王様にするという明確な狙いで名付けられた。全国的にその地位に達するかどうかは別として、実際に食べた人にとっては、決して大げさに聞こえない名前だ。
イバラキングの旬は5月から6月上旬。高品質の認証品は首都圏の百貨店などで販売される。日持ちが比較的長いのも特徴で、高級メロンの中では贈答用として扱いやすい。
クインシー:オレンジ果肉という選択肢

イバラキングが緑果肉の“王冠”品種だとすれば、Queenthy(クインシー)はオレンジ果肉の対となる存在だ。クインシーは日本で開発され、1989年に商品化された。果肉のオレンジ色はβカロテン含有量の高さによるもので、栄養面では多くの緑果肉メロンより優れている。
クインシーの味わいは、はっきり甘く、厚みがある。香りはイバラキングより強め。果肉はわずかにしっかりしており、追熟が進むにつれてやわらかくなる。旬はイバラキングと重なり、5月から7月上旬まで続く。
クインシーは全国で広く流通し、オレンジ果肉メロンの“定番”のような存在になっている。茨城はその国内供給の大きな割合を担う。緑果肉の品種より味が濃く複雑だと感じる人もいれば、鮮やかな色が皿の上でお祝いらしさを演出してくれるからこそ好きだという人もいる。
茨城メロンの味わい
メロンの味を言葉で説明するのは、思う以上に難しい。甘さ、香り、ひんやりしたみずみずしい食感。そうした分かりやすい要素は確かにある。だが、良い茨城メロンは、その基本的な印象を超えてくる。
イバラキングの甘さには層がある。まず輪郭のはっきりした甘みが来て、その後まろやかさへと落ち着いていく。果肉はジューシーだが崩れない。切っても形を保つ。そして意外に感じられるのが香りだ。小さな部屋で完熟のイバラキングを開く体験は、実際に息をのむほど印象的である。香りは濃密で、紛れもなくメロン。その一方で、熟れすぎた果物にありがちな、だらりとした甘ったるさはない。
クインシーは、より密度の高い、はちみつのような甘さを見せる。βカロテン由来のニュアンスが、言葉にしにくい奥行きを加える。甘みの奥にほんのりナッツのような風味を感じる人もいれば、緑果肉品種よりコクがあって重めだと表現する人もいる。どちらも的を射ている。
どちらの品種も、いちばんおいしい食べ方はシンプルだ。よく冷やし、きれいに切り、食べごろの完熟で食べる。茨城の地元では、生ハムと合わせて甘じょっぱさの対比を楽しむ人もいる。半割りのメロンにブランデーを直接注ぐ「ブランデーメロン」も、昔からある地元の食べ方で、近年あらためて注目を集めている。
なぜ茨城は日本屈指のメロン産地なのか
地理条件が多くを説明してくれる。鉾田市は太平洋と、北浦や霞ヶ浦を含む沿岸の湖群に挟まれた細長い土地に位置する。海風が一年を通じて気温を穏やかに保ち、夏は暑くなりすぎず、冬は冷え込みすぎない。メロンは気温の変動に極めて敏感であり、鉾田の気候はほぼ理想的だ。
土壌も強みを重ねる。関東平野のローム層の土は水はけが良い一方で保水性も高い。自然に肥沃で、野菜や果物の味を濃く出しやすい。茨城は「関東の台所」と呼ばれることもあり、その評価はメロンに限らない。水戸のNattoや、ひたちなかのstamina ramenも、評判以上に実力のある茨城グルメの例だ。
茨城のメロン栽培が本格化したのは1960年代初頭。農業協同組合(JA茨城)が鉾田を理想的な栽培地と見定め、地域のインフラ整備を積極的に進めた。20世紀後半には茨城が全国生産量のトップに立ち、その座を譲っていない。
現在、JA鉾田メロン部会は、プレミアムなイバラキングのブランドに厳格な出荷基準を適用している。出荷前に、光センサーで糖度、熟度、水分状態を測定。基準を満たしたものだけが「High Quality Ibaraking」の認証を得られ、残りは通常ラベルとして販売される。
こうした品質管理こそが、日本の果物の贈答文化を成り立たせている要素の一つだ。箱入りのメロンを贈ることには、品質が安定しているという暗黙の約束がある。茨城メロンは、その約束にきちんと応えてくれる。
お土産・季節の贈り物としてのメロン

日本では、高級フルーツはそれ自体が贈答品の一大カテゴリーです。百貨店では、美しく箱詰めされた果物のためにフロア丸ごとを割くこともあります。メロン1玉の価格は、日常用の品種なら1,000円ほどから、認定されたプレミアム等級では5,000円を大きく超えることもあります。お土産として果物を贈る習慣は、日本の社会生活に深く根付いています。
茨城メロンは、こうした伝統に自然に溶け込みます。持ち運びがしやすく、やわらかい果物に比べて日持ちもし、丁寧さが伝わるパッケージで届きます。東京の百貨店では、最盛期の5〜6月に目立つ場所で取り扱われます。茨城を訪れれば、農園や道の駅、地元の直売所で直接購入でき、同じ果物でも東京の小売店よりはるかに安い価格で手に入ることがよくあります。
生食だけでなく、県内ではメロンを使った商品が至る所にあります。メロンパン、メロンソフトクリーム、メロンかき氷、メロン風味のドリンク、さらにはメロンカレーまで、地元ならではの“ご当地ネタ”として登場します。この果物は、soboro nattoをはじめとする茨城ならではの食と同じように、土地や作り手の人々の個性を映し出す「地域のアイデンティティ」になっています。
茨城メロンの買い時と購入場所

主なシーズンは、イバラキングやクインシーなど春系品種が中心となる4月下旬から7月にかけてです。アールスメロンは季節を初秋まで延ばし、一般的に8〜9月が食べ頃になります。
直売で買うなら鉾田市が最適です。複数の農園や共同出荷・直売所があり、収穫期にはメロン狩り体験を提供するところもあります。6代以上続く深作農園は、選択肢の中でも比較的よく知られた存在です。鉾田周辺の道の駅でも、収穫したてのメロンが手頃な価格で販売されています。
東京からは、春のシーズンを通じて主要百貨店や高級スーパーで茨城メロンを購入できます。価格は等級や品種によって大きく異なります。標準的なイバラキングは直売所ではおよそ500円で販売されることが一般的です。認定を受けたプレミアム品は、これより大幅に高価になります。
参考文献
- Ibaraki Guide: Six Must-Try Fruits from Ibaraki, Japan’s Food Kingdom
- Ibaraki Guide: 5 Foods to Try in Ibaraki
- Ibaraki Shokusai: Melon – Ibaraki’s Specialty Products
- SHUNGATE: Hokota’s Melons – A New Challenge for Three Generations of Farmers








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